December 19, 2010
Rebirth [詩]
世界のはじまりの色を、僕は知らない。
燃えるような赤だったのか、凄寥たる青だったのか。
あの太陽のように黄金に輝いていたかもしれないし、
あの月陰のように真白く儚かったかもしれない。
全てを生み出す黒か、全てを眩ます虹色か。
見守っていたはずの何億年前の自分に問いかけながら、
現代の僕は、この空の色で精一杯だと首をふる。
どこからか繋がった糸電話。
風砂と共に断ち切られた回線は、ただの飾りだったことを今知る。
何年生きていても、僕が理解することなどこのノートで足りてしまう。
そして、最後まで埋まらない解答欄に溜息を。
朝焼けの赤だろうと、帳の青だろうと、
いいかげんな自己回答を入れてしまうくらいなら、
僕はまた何億年と待って、
世界の終わりの瞬間のその色こそを書き込んで。
ただ、君が微笑んでいられる結末を求めるのだ。
その有限な永遠の先へと導きながら。
燃えるような赤だったのか、凄寥たる青だったのか。
あの太陽のように黄金に輝いていたかもしれないし、
あの月陰のように真白く儚かったかもしれない。
全てを生み出す黒か、全てを眩ます虹色か。
見守っていたはずの何億年前の自分に問いかけながら、
現代の僕は、この空の色で精一杯だと首をふる。
どこからか繋がった糸電話。
風砂と共に断ち切られた回線は、ただの飾りだったことを今知る。
何年生きていても、僕が理解することなどこのノートで足りてしまう。
そして、最後まで埋まらない解答欄に溜息を。
朝焼けの赤だろうと、帳の青だろうと、
いいかげんな自己回答を入れてしまうくらいなら、
僕はまた何億年と待って、
世界の終わりの瞬間のその色こそを書き込んで。
ただ、君が微笑んでいられる結末を求めるのだ。
その有限な永遠の先へと導きながら。
結末間近に、挨拶
さて、一通り旅立つ準備は出来たと思います。
小説も完結したし、挨拶回りもした。
URLを教わった方々のブックマークもPCに保存済み。
今後は引越し先のライブドアでブログをぼんやり続けていきます。
今確認したら、グーグル先生で『空嘘とAurora』で検索すればばっちり出ます。
HNが朝斗なら私確定です。
それにしても、
最後くらいお気に入りのスキンにしておこうかな、と思ってあれこれ見ていたんですが。
結構、いつまでも使っていたいスキンがちらほらあったりして。
文字サイズ固定なのは苦しかったけど。
5年ですよ、5年。
その間にたくさんの人たちと出会い、別れてきました。
多くのことを学び、人の世を儚んで来ました。
けれど、良く考えたら、私って何も変わっていない。
大学生の私も、似非社会人の私も、何か変化があったかといえばそうでもない。
思考回路くらいは肥えていると嬉しいですね。
しかし、此処を離れちゃうと、いつのまにか途切れちゃった人たちの道標にはもうなれないんだな。
私は彼らの頭の片隅に、残るような日々を綴ってきただろうか。
朝斗という名前と、Auroraという看板と。
せめて私の名前なんて忘れてもいいから、私の作品や雑文や呟きの何か一節を覚えていてくれるなら、それはとてもとても嬉しいです。
また会いましょう。
心の中でもいい。
それが電脳世界の上なら、もっと幸せです。
それでは。
あ、記事はもう少し書くかもしれません。
追記。
この5年間と少しのアクセス数は275497でした。
約276000回の交流です。
出会いと別れ、再会。
すべてが此処に詰まっています。
小説も完結したし、挨拶回りもした。
URLを教わった方々のブックマークもPCに保存済み。
今後は引越し先のライブドアでブログをぼんやり続けていきます。
今確認したら、グーグル先生で『空嘘とAurora』で検索すればばっちり出ます。
HNが朝斗なら私確定です。
それにしても、
最後くらいお気に入りのスキンにしておこうかな、と思ってあれこれ見ていたんですが。
結構、いつまでも使っていたいスキンがちらほらあったりして。
文字サイズ固定なのは苦しかったけど。
5年ですよ、5年。
その間にたくさんの人たちと出会い、別れてきました。
多くのことを学び、人の世を儚んで来ました。
けれど、良く考えたら、私って何も変わっていない。
大学生の私も、似非社会人の私も、何か変化があったかといえばそうでもない。
思考回路くらいは肥えていると嬉しいですね。
しかし、此処を離れちゃうと、いつのまにか途切れちゃった人たちの道標にはもうなれないんだな。
私は彼らの頭の片隅に、残るような日々を綴ってきただろうか。
朝斗という名前と、Auroraという看板と。
せめて私の名前なんて忘れてもいいから、私の作品や雑文や呟きの何か一節を覚えていてくれるなら、それはとてもとても嬉しいです。
また会いましょう。
心の中でもいい。
それが電脳世界の上なら、もっと幸せです。
それでは。
あ、記事はもう少し書くかもしれません。
追記。
この5年間と少しのアクセス数は275497でした。
約276000回の交流です。
出会いと別れ、再会。
すべてが此処に詰まっています。
《目次》小さな鍵と記憶の言葉~Endless words
小さな鍵と記憶の言葉
A Little lock,and Endless words.
第1章 導かれて落ちる先
1 2 3 4 5 6
第2章 なみだの海と不思議の世界
7 8 9 10 11 12
第3章 広い広い、城のなかで
13 14 15 16 17 18 19
第4章 白兎とトカゲ
20 21 22 23 24 25 26
第5章 芋虫の助言
27 28 29 30 31 32
第6章 幸福と困惑
33 34 35 36 37 38 39 40
第7章 二時半のお茶会
41 42 43 44 45 46 47
第8章 女王様の硝子王冠
48 49 50 51 52 53
第9章 偽ウミガメの話
54 55 56 57 58 59 60
第10章 消えていくもの 託されたもの
61 62 63 64 65 66 67
第11章 誰が彼女を追い詰めたか
68 69 70 71 72 73 74 75
終章・第12章 アリスの想い
76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86
* その他、最新作品は目次5にて公開
A Little lock,and Endless words.
第1章 導かれて落ちる先
1 2 3 4 5 6
第2章 なみだの海と不思議の世界
7 8 9 10 11 12
第3章 広い広い、城のなかで
13 14 15 16 17 18 19
第4章 白兎とトカゲ
20 21 22 23 24 25 26
第5章 芋虫の助言
27 28 29 30 31 32
第6章 幸福と困惑
33 34 35 36 37 38 39 40
第7章 二時半のお茶会
41 42 43 44 45 46 47
第8章 女王様の硝子王冠
48 49 50 51 52 53
第9章 偽ウミガメの話
54 55 56 57 58 59 60
第10章 消えていくもの 託されたもの
61 62 63 64 65 66 67
第11章 誰が彼女を追い詰めたか
68 69 70 71 72 73 74 75
終章・第12章 アリスの想い
76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86
* その他、最新作品は目次5にて公開
《終》小さな鍵と記憶の言葉 86[小説]
エピローグ
「――ということで、今日が新部長候補のエントリー最終日です。希望する人でまだの人はちゃんと部活終了までに顧問に伝えてください。予備期間と正式決定は来週以降で……」
土曜日の朝。部活開始のミーティングで、部員達は一斉に色めき立っていた。そわそわとお喋りを交わすのは投票側の部員で、立候補側の人間は別の意味で落ち着かない。
結局のところ、部長に立候補する人間は今のところいないようだった。エントリーしているのはいずれも推薦。私を慕ってくれる後輩達は口々に『推薦しておきました!』『がんばってください!』なんて満面の笑みを浮かべるけれど、それだってそもそも決定事項ではないのだから、気の早い話ではある。
ミーティングが散会して、パートごとの練習に入る。私達はいつものように非常階段へ、音楽室に残るのは移動の困難なパーカッションと、ベランダには金管楽器のメンバーの姿が見える。
「七瀬さん」
足早に廊下を歩いていく後姿に、私は慌てては走り寄った。しゃきっとした背筋が音もなく振り向く。つり目がちの瞳と綺麗な長い髪。左手には彼女のパートのサックスがしっかりと握られていた。
「なに?」
真剣な眼差しが私の次の言葉を待った。いつだって真っ直ぐなことしか言わないから、ほとんど彼女を知らない人なら、何か悪いことをしたかと誤解するかもしれない。
でも、私達部員はちゃんと分かってる。努力家で妥協を許さない頑張り屋さん。だから私だって、誤魔化さずに彼女に伝える。
「あのね」
ふっと呼吸を整えて、七瀬さんをちゃんと見詰め返す。
「私、部長になりたい。他人にどう言われたって構わない。まだ頼り甲斐がなくたって、決断力がなくたって。それでも私は決めるの。絶対後悔しないように」
一気に口にしてから、自分がポケットを握り締めているのに気がついた。
やっぱり少しは緊張しているのかもしれない。この一歩が正しいのか、自分が満足に歩ける道なのか、まだ見通しは立たなくても、二週間前の私と私は違う。少しくらい広いお城で迷子になったって、私のポケットには金色の小さな鍵が入っている。
「だから、これからも見捨てないでいてくれると嬉しいな、なんて」
笑顔を浮かべてみる。その瞳の強さに変化は見られない。彼女は数秒ほど真っ直ぐ私の目を見たまま何かを思案して、それからやっと小首を傾げた。
「そう」
呼吸に紛れてしまうような、溜息に似た短い声。うん、と、釣られるように首を縦に振って、もう一度自分の決意を確認した。
やがて興味を失ったように外される目線。サックスを抱えなおして、くるりと背中を向けてしまう。
不安になったのは一瞬、すぐに、七瀬さんの呟きのような返事が耳に届いた。
「そういう貴女は、悪くないわ」
穏やかに聞こえたその声を追いかけて、私は彼女の隣に並んだ。
きっと私達は、これからもお互い良き仲間で、良きライバルになる、そんな気がしていた。
サッシ窓の外に広がるのは吸い込まれそうな青空。すっかり秋色に染まった日常の中で、私達が放課後そろってミルクティを飲む日も遠くないのかもしれない。
カチ、コチ、カチ、コチ。
足早な高校生活という時間を、今日も絶え間なく時計が記してくれる。
続きを読む
「――ということで、今日が新部長候補のエントリー最終日です。希望する人でまだの人はちゃんと部活終了までに顧問に伝えてください。予備期間と正式決定は来週以降で……」
土曜日の朝。部活開始のミーティングで、部員達は一斉に色めき立っていた。そわそわとお喋りを交わすのは投票側の部員で、立候補側の人間は別の意味で落ち着かない。
結局のところ、部長に立候補する人間は今のところいないようだった。エントリーしているのはいずれも推薦。私を慕ってくれる後輩達は口々に『推薦しておきました!』『がんばってください!』なんて満面の笑みを浮かべるけれど、それだってそもそも決定事項ではないのだから、気の早い話ではある。
ミーティングが散会して、パートごとの練習に入る。私達はいつものように非常階段へ、音楽室に残るのは移動の困難なパーカッションと、ベランダには金管楽器のメンバーの姿が見える。
「七瀬さん」
足早に廊下を歩いていく後姿に、私は慌てては走り寄った。しゃきっとした背筋が音もなく振り向く。つり目がちの瞳と綺麗な長い髪。左手には彼女のパートのサックスがしっかりと握られていた。
「なに?」
真剣な眼差しが私の次の言葉を待った。いつだって真っ直ぐなことしか言わないから、ほとんど彼女を知らない人なら、何か悪いことをしたかと誤解するかもしれない。
でも、私達部員はちゃんと分かってる。努力家で妥協を許さない頑張り屋さん。だから私だって、誤魔化さずに彼女に伝える。
「あのね」
ふっと呼吸を整えて、七瀬さんをちゃんと見詰め返す。
「私、部長になりたい。他人にどう言われたって構わない。まだ頼り甲斐がなくたって、決断力がなくたって。それでも私は決めるの。絶対後悔しないように」
一気に口にしてから、自分がポケットを握り締めているのに気がついた。
やっぱり少しは緊張しているのかもしれない。この一歩が正しいのか、自分が満足に歩ける道なのか、まだ見通しは立たなくても、二週間前の私と私は違う。少しくらい広いお城で迷子になったって、私のポケットには金色の小さな鍵が入っている。
「だから、これからも見捨てないでいてくれると嬉しいな、なんて」
笑顔を浮かべてみる。その瞳の強さに変化は見られない。彼女は数秒ほど真っ直ぐ私の目を見たまま何かを思案して、それからやっと小首を傾げた。
「そう」
呼吸に紛れてしまうような、溜息に似た短い声。うん、と、釣られるように首を縦に振って、もう一度自分の決意を確認した。
やがて興味を失ったように外される目線。サックスを抱えなおして、くるりと背中を向けてしまう。
不安になったのは一瞬、すぐに、七瀬さんの呟きのような返事が耳に届いた。
「そういう貴女は、悪くないわ」
穏やかに聞こえたその声を追いかけて、私は彼女の隣に並んだ。
きっと私達は、これからもお互い良き仲間で、良きライバルになる、そんな気がしていた。
サッシ窓の外に広がるのは吸い込まれそうな青空。すっかり秋色に染まった日常の中で、私達が放課後そろってミルクティを飲む日も遠くないのかもしれない。
カチ、コチ、カチ、コチ。
足早な高校生活という時間を、今日も絶え間なく時計が記してくれる。
End.
小さな鍵と、永遠の誓い。
A Little lock,and Endless words.
小さな鍵と、永遠の誓い。
A Little lock,and Endless words.
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小さな鍵と記憶の言葉 85[小説]
白兎がホールの隅の滑車に手をかける。中央に繋がった鎖はずるずるとバンダースナッチごと持ち上がる。
弛められた鎖から少し開放されて、文字盤がひとりでに宙に浮かんだ。ちょうどアリスの目の高さ。いつの間にか針は動きを止めていた。
辺りを見渡して、少女はすぐに螺子巻きの穴を見つける。普通の時計と同じように、針の接合部分の真下に鍵穴のようなものがあった。指差して、あれね、と水面の向こうの少女が呟いた。
白兎は、幸福と不幸を同時に抱えていた。
魂が吹き溜まった器は、いつしか感情を持つ。人間と同じように考え、感じ、無限の日々を過ごしていく。存在を保つには誰かの愛情が必要だった。自分を必要としてくれる人、手元において、飽きずに見守り続けてくれる人が。
愛してくれた誰かが見向きもしなくなった瞬間、彼らは本当に消えてしまう。だから『僕達』はここに集まった。
彼らは愛情を注いでくれる人に心を預ける。愛してくれるひとのために、自らの持つ役割を果たす。身を削って、魂をかけながら、この箱庭を彩っていく。
それが本当は自分達のためだと、薄々察しながら。
「そうだ。ひとつだけ、聞いておきたいんだけど、いい?」
鍵を手に、直前になってリラが兎を振り返った。突然の言葉に驚きながら、なに、と白兎は問い返した。代わりに返されたのは微笑だった。
「私が螺子を回しても、フィンは変わらずに《白兎》で居てくれる?」
正答を探すのに聊か時間が必要だった。思ってもいない言葉だ。彼女が何処で気付いたのかも分からない、けれど。白兎は気を取り直す。微笑を持って彼女の『案』を受け入れることにした。
「トカゲも、騎士も。ケイは前のアリスの兎候補だったんでしょう。誰一人欠けない元通りのお城になるかな?」
以前のアリス達は……いや、《アリスになり得た人達》は、彼らに愛情は分け与えてくれても心までは注いでくれなかった。
仕方ないんだ。『僕達』を創ったのが人間である限り、僕達とアリスは同等ではない。必ず僕達は慕う側で従う側。だから壊されることを恨むことはできないし、忘れられることを拒むことは叶わない。
「ありがとう」
――それでも僕達は待っていた。誰かが振り向いてくれることを。誰かがもう一度愛してくれることを。
「約束するよ。君が望むなら、誰一人捌かれることはないだろう」
だからね、リラ。
僕は君に逢えただけで充分だったんだ。
少女は満足したように二回頷き、鍵穴に鍵を差し込んだ。きりきりと音を立てて時間が蓄積されて行く。
振り子の音が、針の音が正確さを取り戻す。青白かった光がオレンジを帯びたあたたかな色に代わり、まるで夜更けから朝焼けへと移っていく空に似ていた。
きりきりと、ぐるぐると。慣れない手付きで螺子を巻いていく。
手を放した瞬間、太陽の輝きが、瞬く間に地上へと昇っていく。その光が真上の時計塔まで届いた瞬間、数日ぶりの鐘の音が城内に響き渡った。
庭には色とりどりの薔薇、本の森にはニタリ笑い。
そして静寂は砕かれ、次第に賑わいが戻り始める。
弛められた鎖から少し開放されて、文字盤がひとりでに宙に浮かんだ。ちょうどアリスの目の高さ。いつの間にか針は動きを止めていた。
辺りを見渡して、少女はすぐに螺子巻きの穴を見つける。普通の時計と同じように、針の接合部分の真下に鍵穴のようなものがあった。指差して、あれね、と水面の向こうの少女が呟いた。
白兎は、幸福と不幸を同時に抱えていた。
魂が吹き溜まった器は、いつしか感情を持つ。人間と同じように考え、感じ、無限の日々を過ごしていく。存在を保つには誰かの愛情が必要だった。自分を必要としてくれる人、手元において、飽きずに見守り続けてくれる人が。
愛してくれた誰かが見向きもしなくなった瞬間、彼らは本当に消えてしまう。だから『僕達』はここに集まった。
彼らは愛情を注いでくれる人に心を預ける。愛してくれるひとのために、自らの持つ役割を果たす。身を削って、魂をかけながら、この箱庭を彩っていく。
それが本当は自分達のためだと、薄々察しながら。
「そうだ。ひとつだけ、聞いておきたいんだけど、いい?」
鍵を手に、直前になってリラが兎を振り返った。突然の言葉に驚きながら、なに、と白兎は問い返した。代わりに返されたのは微笑だった。
「私が螺子を回しても、フィンは変わらずに《白兎》で居てくれる?」
正答を探すのに聊か時間が必要だった。思ってもいない言葉だ。彼女が何処で気付いたのかも分からない、けれど。白兎は気を取り直す。微笑を持って彼女の『案』を受け入れることにした。
「トカゲも、騎士も。ケイは前のアリスの兎候補だったんでしょう。誰一人欠けない元通りのお城になるかな?」
以前のアリス達は……いや、《アリスになり得た人達》は、彼らに愛情は分け与えてくれても心までは注いでくれなかった。
仕方ないんだ。『僕達』を創ったのが人間である限り、僕達とアリスは同等ではない。必ず僕達は慕う側で従う側。だから壊されることを恨むことはできないし、忘れられることを拒むことは叶わない。
「ありがとう」
――それでも僕達は待っていた。誰かが振り向いてくれることを。誰かがもう一度愛してくれることを。
「約束するよ。君が望むなら、誰一人捌かれることはないだろう」
だからね、リラ。
僕は君に逢えただけで充分だったんだ。
少女は満足したように二回頷き、鍵穴に鍵を差し込んだ。きりきりと音を立てて時間が蓄積されて行く。
振り子の音が、針の音が正確さを取り戻す。青白かった光がオレンジを帯びたあたたかな色に代わり、まるで夜更けから朝焼けへと移っていく空に似ていた。
きりきりと、ぐるぐると。慣れない手付きで螺子を巻いていく。
手を放した瞬間、太陽の輝きが、瞬く間に地上へと昇っていく。その光が真上の時計塔まで届いた瞬間、数日ぶりの鐘の音が城内に響き渡った。
庭には色とりどりの薔薇、本の森にはニタリ笑い。
そして静寂は砕かれ、次第に賑わいが戻り始める。
Next is the last.
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