小さな鍵と記憶の言葉 27[小説]小さな鍵と記憶の言葉 28[小説]

October 12, 2009

『暗い部屋』 [小説]

 小さな箱に穴を開けて、反対側に薄い紙を張った。

 反射したのは逆様の世界。私は嬉しくなって、その箱の前に色々なものを並べてみる。
 鉢植え、水槽、ハンカチ、ビー玉、お気に入りの靴。
 それが全部、窓の外の青空とともに反転する。

 きらきらとのぼる朝露。ナラの葉が風に揺れて、青色を掻き混ぜる。
 それを見ていると、世界が動いていることを実感しながらも、時間が止まっているような感覚を憶えた。
 思わず声を零して微笑む。

 今度は電気を消して部屋も暗くしてみる。
 そうすると奥の壁に大きく映りこむ、世界。


 不思議だ。
 一言で表わすと、夢を作っているような。


 小さな箱の中に、全てを閉じ込める。呼吸のように吸い込んで、新しく景色を作り出す。
 この瞬間、この部屋の中の内側は、私だけの場所。

 こんな風景を見たのなら、先人たちは留めたいと思っても仕方無い。世界を切り取る術を見つけて、それを残すことに成功して。そして、ここに今の私がある。
 『カメラ・オブスキュラ』。この部屋と同じ意味の名前を持つ、魔法の箱。


 そこから始まった途方もない努力を想像しながら、私は世界を描くことにした。

 まだ空白のままの、一枚の布を広げて。


End.
Index4

※《彗星舎》輪音さんの競演企画『第十回三題噺』への参加作品です。
 お題:空白、カメラ、靴



この記事へのコメント

1. Posted by 輪音   October 12, 2009 01:14
世界を我が手に

握り締め

ひっそり微笑む

闇の中

かすかなヒカリ

抱きしめて

無限を信じ

明日を夢見る



力作をありがとうございました。

2. Posted by 朝斗   October 13, 2009 14:59
輪音さん


明日を望んだ先人たちの

明日を臨んだひとりの娘

闇に溢れる未来の光

次に挑むは新たな希望

無限は廻り夢幻を抱いて

***
オブスキュラを作り出した先人に敬意を表しながら。

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