混沌印は乙女キッスV 前[小説]シフト 5[小説]

June 03, 2009

混沌印は乙女キッスV 後[小説]

 ピンと張り詰めた空気の中、篠崎が口を開きかけた次の瞬間。

「見つけたぞ、セーラー乙女キッスV!」

 蹴り開けられる事務所の扉。わらわらと入ってくるのは酒で頬に朱をさしたくたびれスーツ姿の男達。あっという間に事務所の中は人口過密になった。

「今日こそお前を倒してやる! 俺たちの残された平和のために!」
 立ち上がるのは部屋に居たバイトの二人。青年は後輩の少女を庇うようにその前へと踏み出した。向かい合っていた篠崎と乙女キッスVは依然として腰掛けたまま、少し倦怠そうに入り口を振り返る。
 乙女キッスVは髪の毛を弄りながら眉をしかめる。
「まさか、覆面戦闘員? こんなところまで」
「くそっ! 余裕かましてないでこっちに来やがれ!」
 戦闘員の煽りを受けて、やっと乙女キッスVが立ち上がる。挑発しておきながら、動揺の色が広がる男達。
 そして振り向きざまに間髪入れず、

「ベジタブル・ラブ・ミー・チェーンっ!」
 腰に下げていたウォレットチェーン、もといラブミーチェーンを振り回した。

「うおおっ!」
 合金のチェーンの打撃を受けてばたばたと倒れる戦闘員達。更にはばたばたと倒れる戦闘員に押しつぶされて、大半がドミノ倒し式に床に伏せる。
 中には打ち所の悪い者もいたようで、呻き声をあげている。
「な、なんのこれしき!」
「アラフォー!」
「ぐはぁっ!」
 辛うじて立っていた戦闘員もダメ押しの一振りで呆気なく膝を折った。
 息も絶え絶えである。

「あたしは今談笑中なの、邪魔しないで頂戴。それとも、クレッセント・シャワーも浴びたいのかしら?」
「くそっ、覚えてろ!」

 飛び込んできた時の勢いは何処へやら。すっかり及び腰になった男たちは早々に尻尾を巻いた。捨て台詞を残し、逃げるように部屋を出て行く。気を失った者共は、かろうじて動けるに留まった戦闘員達が担いで退散していく。
 その後姿を見送りながら、誇らしげに仁王立ちする乙女キッスV。

 かくして事務所に再び静寂が帰ってきたのだった。

「ふん。乙女キッスVに挑もうだなんて100万年早いわね」
 気を取り直し、にこやかに振り返る乙女キッスV。
「で、探偵さん。さっきの話の続きなんだけど――」
 しかしその笑顔を遮ったのは、無機質な篠崎の声。

「――カズヒロ」
「はい」
 名前を呼ばれたバイトの青年が、すいっと前へ出る。
 そして、いい加減面倒臭そうに宣告した。
「早急にお帰り頂け!」
「畏まりました、所長」
 非のうちどころがない青年の笑顔と、事務所の端で困惑したままの先刻の少女。篠崎は禁煙中なのも忘れて煙草に火をつけた。
「ちょっと! まだ話は終わってないわよ!」

 そうしてブレザー姿のセーラー乙女キッスVは、ぐいぐいと肩を押されながら扉の外へ消えていった。
 残されたのは、口をつけなかったお茶と蹴り飛ばされて歪んだ事務所の扉。
 遠くで響くは彼女の叫び。

 かくして、本当に、事務所に平穏が戻ってきたのだった。


ゆけ、セーラー乙女キッス!

負けるな、セーラー乙女キッス!

希望の朝が来るのを信じて!

だれもがキミを待っている!


 ……たぶん。

完.


* * *

「前略 アラフォー戦隊いかがですか」という本家魔王様からのお手紙を拝読し、僭越ながら一品書かせていただきました。

本当は新たに興信所か相談室を召喚しても良かったのですが、うちの恵さんが暇そうにしていたので押し付けてみました。いい感じに困らせることが出来て満足です。ふふふ。

世界観的にもぎりぎりありかなと。いや、オマージュでありパロディでありパラレルです。
そして、本編がムーンなら外伝はVだろ、と。

余談ですが、コレを書くために『コードネームはセーラーV』全三巻を読み返してしまいました。悲恋って好きです。


『ブレザーもといセーラー乙女キッスVは無事に仲間を見つけることができるのだろうか!?』(次回予告風に)

後書にはなりますが、ご笑読いただければ幸いです。
元祖乙女キッスと混沌魔王に愛をこめて。


追伸、そういえば乙女キッスに身包み剥がさせるのを忘れました。
外伝Vということで許してください。



asa10_s at 00:36│Comments(2)小説。創造と想像 

この記事へのコメント

1. Posted by 輪音   June 03, 2009 01:54
さっそく愉快なお話をしたためていただきまして、ありがとうございます。

堪能させていただきました。

なお、前編が余りに面白かったので、ちっとばかし内容を絡めた新作をトラックバックさせていただきました。

御笑覧いただけましたら幸いです。


しかし、覆面戦闘員の人たちも不幸ですね。

本家にヤラれ、Vにヤラれ。

いやはや。

ラブミーチェーンのくだりにはうぷぷ、となりました。

流石です。

クレッセント・シャワーの内容につきましては次回の楽しみにとっておくこととします。

ではまた、月の光に導かれながら。


2. Posted by 朝斗   June 04, 2009 01:39
輪音さん
こちらこそ、痛快なひとときをありがとうございました。
楽しんでいたたけてなによりです。
トラックバックも早速読みに窺いましたが、相変わらずはいから乙女キッスがかわいそ、可愛いくて仕方ありません。
お姉様方も有意義な毎日を過ごされているようで。
覆面戦闘員の皆さんは、多分星の廻りが悪かったのだなぁと思いつつ全力で負けていただきました。なむなむ。
クレッセント・シャワーの用途もぼんやりと考えているので、またVの活躍の場が(もし)またあれば。
本当は日々が平和であれば一番なのでしょうけどね。
夜空に月が輝く限り、彼女たちの活躍も続くことでしょう。

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