ママの日仕事への一幕

May 11, 2009

呼吸 4[小説]

【4】 アキ

 わざわざ部屋から詰め込んできた鞄を抱えて浴室へ向かう。中から引っ張り出すのは愛用のジャージ。
 学校指定のものではない。普通に、その辺のスポーツ用品店で売っているメーカーのものだった。普段は自分の部活以外に掛け持ちもしているので、指定だけでは数が回らないのだ。
 あとは、こうして癖のように私服化させてしまうのもいけない。休日でもあれこれと動き回っているので仕方無いのもあるのだけれど。


 中学の頃に比べれば行動範囲が広まったと我ながら思う。
 距離の話ではない。心の話だ。高校生活がこんなに楽しいものだとは思いもしなかった。
 今はあの小さな部室を中心に、仲間を巻き込んで自由にやっている。部活というより校内何でも屋みたいなものだけれど、様々な出来事を皆で解決していく過程は凄く楽しい。

 こうして自分が自由にやっていられるのは、きっとナオの存在が大きい。
 あんな突拍子もない部活を立ち上げることが出来たのも、変わらず続けていられるのも。だいいち、こうして高校に行こうと思えたのも彼のおかげなのだから。

 それに今は、沢山の仲間がいる。昔はあんなに嫌だった『他人』が、今はかけがえのない仲間なのだから、人間は日々変化していけるものなのだろう。


 ああそうだ。今日は皆で外に出よう。
 土曜日だからキィも来るだろうし、先日晴れて正式入部した彼女もいることだし、歓迎会とかなんとかこじつけて食事に行くのもいい。

 あれこれと楽しいことを考えている間は、面倒なことも忘れられる。
 面倒な、こと。
 少しだけ、保留に出来る気がするのだ。


 袖を通し終えて、鏡を覗き込む。
 後ろ髪に寝癖がついていたので、手っ取り早く括っておくことにした。

***





asa10_s at 01:23│Comments(0)小説。創造と想像 

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